遅れてきた梅雨

専用の着メロ設定なんてあたしはいつも怖くてできなかった。
いつか別々の道を歩むことになったら、
きっとあたしはもうその曲を聞くことができないから。
そんな子だった。
だけど、もう受信ボックスを開けてガッカリなんかしないように、
気が付いてたら、設定していた。
そして、その曲を聴くたびに思い出しては、まだキレイな思い出にならない。


あの子は言った。
「どうしてあたしには言ってくれないの?」
あの日、言ったところで、きっとデート中だろうと思った。
慰めてくれるのは、あの子じゃないような気がした。
本当にただそれだけだった。
「明日おしえてね」とあの子は言った。
また傷を掘り返されるのかと、まるで他人事のように思いながら、
昼間から眠りに落ちて、
悪夢で目を覚まして、気分は最悪だった。
悪夢なんかじゃなくて全部が真実で、あたしはそれを夢の中で思い出した。


あの子だって元彼とヨリを戻したんだ。


誰も悪くはないけど、そればかりがぐるぐる回って、気持ち悪くなった。
あの子だって、彼を振って、他の誰かと付き合って、
やっぱ違う、あたしはやっぱ好きなんだなんて気づいて、
元彼の周りの女の子に嫉妬しては、
好きなのなんて言い寄って、ヨリを戻した。
あの時、「よかったね」って言ってたあたしがいた。
要は、誰の立場になって感情移入してるかの違いだよね。
身勝手だけど、今のあたしだったらそんな言葉は言えない。
どうしてこんなにも難しいんだろう。
好きなら別れないで。
それをずっとバカみたいに泣いている女や男だっているかもしれない。